
多生の縁
06 Jun 2025
『袖振り合うも多生の縁』という諺があります。他人と袖が触れ合う程度のことも前世からの因縁だ、といった意味ですね。お越しくださる皆さまとのご縁の深さは言うまでもありませんが、当店にやってくるのは人だけではありません。
SHEETSには、バンチからお選びいただき都度発注する生地だけでなく、手元に在庫している生地もあります。方々からの頂き物であったり、オーナー森田の好みで買い付けたものであったり、経緯は様々ですがこれも一つの縁でしょう。
店頭であまりお勧めしてこなかったのですが、これからは季節に合わせ適宜ご紹介していくことになりました。縁結びのつもりで、皆さまと生地とを振り合わせてみようと思います。
それでは、まず一つ目。HARRISONS社のBURRA BAYという生地で、ネイビーの無地です。大雑把に言えばウール地なのですが、メリノウールとシェットランドウールを、6:4の割合で使用しています。
シェットランドウールとは、文字通り英国シェットランド諸島原産の羊毛のことです。同地の冬は、厳寒に加えて餌も少なく、崖に生えた海藻を食べて凌ぐという過酷な生育環境。そんなシェットランド種から採れる羊毛は、厳しい生育環境が生む毛質の柔らかさに加え、原毛の発色の良さでも知られています。
このシリーズはその豊かな色合いを活かし、無染色の糸で織り上げたもの。ご紹介するネイビーも、紺色と原毛の茶色をそれぞれ経緯に配しているのです。遠目に見ると普通の紺無地なのですが、よく見るとその下からブラウンが滲んでくるような、奥行きを感じさせる複雑な表情を持っています。
綾織り特有のしっとりした柔らかさがありつつ、ややツイーディなざっくりとしたテクスチャーも併せ持っています。パッチポケットの少し寛いだジャケットなどをお仕立て頂くのがお勧めです。
さて、ジャケット生地をご紹介したのであれば、合わせてトラウザーズもご案内しなくてはなりません。そこでお勧めしたいのが、YORKSHIRE TEXTILE社のsuper100’sのスーチングシリーズから、ミディアムグレーのシャークスキンです。
勿論スーツに仕立てるのに適したシリーズなのですが、こちらはトラウザーズ単体でも重宝すると考えています。暗すぎず明るすぎず、上着の色を選ばないトーンではないでしょうか。ややマットな質感であり、ジャケット用の生地に対しても浮くことがありません。
ジャケット生地と言っても、ビジネスカジュアルに適したものから休日用のものまで、その性格は様々です。それらを幅広くカバーできるような、中庸なトラウザーズを一つ持っておけば、ジャケット選びの幅も広がるかと思います。3シーズン用の合物ですので、年中つい手に取ってしまう、頼れる一本になることでしょう。
今回ご紹介した2つでスタイリングをするならば、例えばネイビーのピンドットのグレナディンタイ、靴はブラックスエードのセミブローグなどを合わせて、ジャケットの少し凹凸のあるような表情と調子を合わせるのがお勧めです。
ニットタイを締めるのであれば、よりカジュアルにローファーを。レップタイであれば素材を表革に置き換えれば、ドレス・カジュアルの匙加減を調整できます。YORKSHIRE TEXTILEで仕立てるトラウザーズの懐の深さが、そこできっと効いてくるのです。
いかがでしたでしょうか?弟子歴4年余りの私から見て、ご紹介した生地はどちらも森田好みのものと言えます。SHEETSらしいセンスを楽しみたい方にとって、今回の2枚に限らずストック生地は大変おすすめです。ぜひ一度、店頭でご覧ください。それでは、また次回。