Do it big, do it right, do it with flannel.
30 Sep 2024
文:佐久 友基
フランネル、これ以上にロマンのある服地はないでしょう。かのフレッド・アステアが愛したことで知られ、グレーのダブルブレストが彼の定番でした。銀幕の華やかな着こなしへの憧れは、フランネルを特別に感じさせる要素の一つです。
もう一つ挙げるとすれば、スポーツウェアに出自を持つカジュアルさでしょうか。ダークトーンの梳毛などを選べば、よほど正式な場でない限りビジネスウェアとして着られますが、遊びの服としての寛ぎは常に潜んでいます。
そう、フランネルは最もクラシックな服地の一つでありながら、フォーマルの厳格さとは縁遠いものであり、ある種の現実逃避を夢見たくなる享楽的な軽やかさがあるのです。つまり、フランネルのスーツでビシっと決め、平日の昼間から飲みに行くという夢です。私の大きな夢です。東京にこれ以上のロマンはないのです。
そんなロマンを叶える一着は、イギリスの名門ミルFOX BROTHERSでどうぞ。フランネルといえばFOXであり、FOXといえばフランネル。強撚平織りのFOX CITYや、土臭すぎずクリーンなFOX TWEEDなど、数々の定番品を持つ同社ですが、フランネルは格別です。
最もスタンダードなCLASSIC FLANNELやカシミヤ混の1772 FLANNELを始め、当店で取り扱いのあるものだけで5つのバンチがあり、同社のバリエーションは業界一と言えるでしょう。
今回はその一つ、VINTAGE FOXについてご紹介いたします。FOX社のアーカイブのうち、1940年代のものを抜粋して復刻したものです。無地に加えて王道のチョークストライプ、多彩なチェックを揃えた定番的な27枚で構成されています。十八番のトップグレーは勿論、鮮やかなブラウンや灰がかったブルーも特徴です。
ここからは王道のグレー以外の、個人的なおすすめをご紹介します。まずはアイボリーとブラックのグレンチェックに、ブルーのオーバーペンを施した一枚。彩度の異なる2色のブルーが都会的で、実にFOXらしい一枚です。扉絵のイラストでも描かれている生地で、バンチを象徴する一枚と言えます。
こちらはジャケット単体のお仕立てでも楽しめるはずです。オイスターホワイトのコットンパンツに、足元はブラックのシングルモンク。スウェードであれば尚よし。ブルーのシャツと差し色のタイで花丸です。
次に、ブラウン系のガンクラブチェック。バンチのキーカラーとなっている、チェスナットブラウンがここにも配されています。重たくなりがちな秋冬の装いに、華やかさや楽しさを添えてくれる、この少し鮮やかな茶色が肝なのです。
こちらはジャケットに仕立て、週末には思い切ってカジュアルに合わせみてください。いつものバブアーやバラクータを、そのまま置き換えるだけです。フェードしたジーンズに黒のタートルネック、着古した普段着たちが活き活きしだすはずです。調子が良ければスキップくらいしてしまうかもしれません。
最後は、ダークネイビーのチョークストライプ。これは勿論スーツで、お好みに合えば是非ダブルブレストで。どっしりと仕立てて頂きたい一枚です。
私の好きな映画『ファントム・スレッド 』で、ダニエル・デイ=ルイスが着ていたスーツは、まさしくFOXのフランネルでした。ラペルも裾幅も広く、全体としてゆったりとした仕立てで、この生地が映えるデザインだったと思います。
作中では淡いラベンダーの蝶ネクタイでしたが、淡色のソリッドタイでスーツの重さを中和するのは、参考になる良いアイデアかと思います。いつもより少し明るいタイ(そして出来れば鮮やかな靴下!)を試してみるのがおすすめです。
いかがでしょうか。この生地の魅力・楽しみ方が伝われば幸いです。当店ではこのVINTAGE FOXだけでなく、FOX社のフランネルを多数用意しております。目にも肌にも楽しい生地ですから、気軽に手に取ってみてください。そして、昼間から一杯やっちゃう休暇の夢を一緒に見ましょう。
これに限らず、特にカジュアルにもお使い頂ける生地の場合、「何が欲しいか?」と同じだけ、「どう着たいか?」も重要です。合わせるお洋服に最適なフィッテングを致しますので、是非ご相談いただければと思います。
それでは、また次回。