sheets /ʃi:ts/

06 Sep 2024

文:佐久 友基

sheetの複数形。敷物、シーツ。

 

当店の屋号です。普通名詞です。オーナーの名を冠することが多いテーラーとしては勿論、広く一般にブランド名として考えても、”note”くらい風変わりだと言えるでしょう。

 

この記事に検索で辿り着いた方は、”sheets”とググって表計算ソフトを山ほど案内された後、”テーラー”や”スーツ”と書き加える羽目になったはずです。ご足労にお詫びすると共に、この検索しづらい屋号を名乗る理由について、ぜひ釈明をさせてください。

 

当店の言う”sheets”は、実はある特定のシーツを指しています。ルーブル美術館にある『眠るヘルマプロディトゥス』という大理石像、その像が裸に一枚纏っている布こそが、”sheets”です。

何のことはない布がさりげなく裸に寄り添い、寛いだ雰囲気の中に調和の取れた美しさを湛えている。肉体に限りなく自然に馴染みながら、肉体がただ肉体としてあるよりも、美的な価値を確かに高めている。その様子に感銘を受けたオーナーの森田は、自身の仕立てる服もそうあるようにと願い、この屋号をつけました。

 

快適なだけでも美しいだけでもない、付かず離れずの良い距離感で、服が人に静かな豊かさをもたらすこと。”sheets”とは、当店の考える服と人の理想的な関係を表す理念なのです。

“モンローのシャネル5番”の逸話が示すように、被服は人間と不可分の行為です。山本耀司は「1つの服を選ぶことは1つの生活を選ぶこと」だとまで話していますが、この言葉に付け加える事があるとすれば、その正解は1つではないという事です。

 

体の形と同様、生活も人それぞれ。車を運転する方、寒がりな方、アイロンがけが苦手な方、雨に濡れるのが好きな方、エディ・スリマンに恋をしている方、トラウザーズがふくらはぎに引っかかる現象が親の仇だという方。それぞれの生活に合うシルエット、生地、仕様の服があるわけです。

SHEETSにはハウススタイルはありません。当店が仕立てるのは、お客様それぞれの生活に寄り添う、お客様それぞれのスタイルです。先の理念が示す通り、服が先を歩くことはなく、常に着る人にこそボールがあるのです。

 

その服を着てどこに行きたいか、何をしたいか、どんな風に生きたいか。ご注文の際はぜひお聞かせください。当店ではビスポークの語源、”be spoken”に相応しいご案内を致します。

 

申し遅れましたが、私、森田の弟子の佐久でございます。拙筆ながら、ブログの執筆を担当する事となりました。今後もそこそこのペースで何某か書いていく予定になっておりますので、ご笑覧くださいませ。

 

次回は、生地について何某か書こうかと思います。それでは。